システム開発におけるWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)とは、プロジェクト全体の作業を細かく分解し、構造化して管理する手法です。
システム開発の現場では、タスクの抜け漏れを防ぎ、スケジュールや工数を正確に見積もるためにWBSが欠かせません。
本記事では、システム開発プロジェクトの進め方に課題を感じている経営企画やDX推進の責任者様へ向けて、WBSの作り方や具体的な項目例を解説します。
- システム開発におけるWBSの定義と必要な理由
- システム開発プロジェクトでのWBSの作り方
- WBSの具体的な項目サンプルとテンプレート
- WBSの作成や管理に役立つおすすめツール
- システム開発WBSを効果的に運用するポイント
記事後半では、WBSを用いたプロジェクト管理の疑問にお答えするFAQ(よくある質問)もまとめています。
自社のシステム開発プロジェクトを円滑に進めるための参考として、ぜひ最後までお読みください。
システム開発プロジェクトにおけるWBSとは

WBSとは、プロジェクトの成果物とそれに必要な作業を階層状に分解し、可視化するためのフレームワーク(枠組み)です。
この章では、WBSの基本概念とシステム開発において求められる役割について、以下の項目に分けて解説します。
- WBSの定義とシステム開発での役割
- システム開発でWBSが必要な理由

WBSの定義とシステム開発での役割
WBSの主な役割は、システム開発という複雑なプロジェクトを、管理しやすい粒度のタスクまで分解することです。
システム開発は要件定義(システムに求める機能を決める工程)からテスト、リリースまで多岐にわたる工程が存在するため、全体像を正確に把握しなければなりません。階層構造を用いてタスクを細分化することで、誰が、いつまでに、何をするべきかが明確になります。
システム開発でWBSが必要な理由
システム開発でWBSが必要とされる理由は、プロジェクトの失敗要因となる「要件の抜け漏れ」や「スケジュールの遅延」を未然に防ぐためです。
ここでは、WBSを導入することで得られる4つの具体的なメリットについて解説します。
- 作業範囲の明確化
- 工数とコストの見積もり精度向上
- 進捗の可視化と早期課題発見
- チーム内のコミュニケーション促進
作業範囲の明確化
プロジェクトで対応すべき作業範囲(スコープ)を明確に定義できることが最大のメリットです。
作業が細分化されることで、「開発チームがやるべきこと」と「やらないこと」の境界線がはっきりします。結果として、プロジェクト途中で予期せぬ機能追加や仕様変更が発生するリスクを抑えることが可能です。
工数とコストの見積もり精度向上
タスク単位で必要な作業時間が可視化されるため、精度の高い工数(作業にかかる時間や人員数)とコストの見積もりが可能になります。
大まかなフェーズ単位での見積もりは誤差が生じやすいですが、細分化されたタスクごとに算出することで根拠のある数字を提示できます。予算超過を防ぐためにも欠かせないプロセスです。
進捗の可視化と早期課題発見
各タスクの完了条件と期限が設定されるため、プロジェクト全体の進捗状況をリアルタイムで把握できます。
「どのタスクが遅れているのか」「どこにボトルネック(進行の妨げになる要因)があるのか」を早期に発見できるため、迅速な軌道修正が可能です。遅延による大規模なトラブルを未然に回避することにつながります。
チーム内のコミュニケーション促進
チームメンバー同士が共通のタスク一覧を参照することで、認識のズレをなくし、円滑なコミュニケーションを実現できます。
各メンバーの役割と責任範囲が可視化されるため、「誰に状況を確認すればよいか」がすぐにわかります。外部パートナーと連携してシステム開発を進める際にも、共通言語として機能します。
システム開発プロジェクトのWBSの作り方

システム開発におけるWBSは、大きな目標から小さなタスクへと段階的に分解していく一般的には、プロジェクト全体の成果物や工程からトップダウンで分解していく方法が用いられます。
ここでは、実際にWBSを作成する際の5つのステップを順に解説します。
- プロジェクトのゴールと成果物を明確化する
- 大項目(フェーズ)に分解する
- 中項目(タスクグループ)に細分化する
- 小項目(個別タスク)まで落とし込む
- 担当者と工数を割り当てる

プロジェクトのゴールと成果物を明確化する
まず実施すべき事項は、システム開発プロジェクトの最終的なゴールと、納品すべき成果物を定義することです。
目的があいまいなまま作業を分解し始めると、不要なタスクが紛れ込んだり、必須機能が抜け落ちたりする原因になります。何をもってプロジェクト完了とするのかを、ステークホルダー(利害関係者)間で合意しておくことが重要です。
大項目(フェーズ)に分解する
成果物が明確になったら、プロジェクト全体を大きなフェーズ(開発工程の区切り)ごとに分割します。
一般的なシステム開発では、「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「実装(プログラミング)」「テスト」「リリース」といった大項目が設定されます。この段階では細かい作業内容には触れず、まずは大枠のスケジュールの目安を把握することに専念します。
中項目(タスクグループ)に細分化する
大項目で設定した各フェーズを、さらに具体的な機能や画面、サブシステムごとの単位に分割します。
例えば「基本設計」という大項目であれば、「画面設計」「データベース設計」「外部インターフェース設計」といった中項目に分けられます。複数のメンバーで分担して作業を進められるレベルまで分解するのが目安です。
小項目(個別タスク)まで落とし込む
中項目を、1人の担当者が迷わず実行できるレベルの具体的な作業(ワークパッケージ)にまで分解します。
「特定の画面レイアウト作成」や「機能の単体テスト(プログラム単体での動作確認)」など、具体的な行動ベースで記載します。タスクの粒度は、数時間から数日程度で完了するサイズに収めるのが理想的です。
担当者と工数を割り当てる
各タスクを洗い出したら、それぞれの小項目に対して具体的な担当者と想定される工数を設定します。
誰がそのタスクに責任を持つのかを明確にし、開始日と終了日を決定します。特定のメンバーに業務が集中しないよう、リソース(人員や時間)のバランスを調整しながらスケジュールを組み立てることが大切です。
システム開発WBSの項目サンプルとテンプレート

WBSの具体的な項目は、開発するシステムの種類や規模によって異なります。
ここでは、Webシステム開発と業務システム刷新プロジェクトの2つのパターンを例に、WBSの構成サンプルを紹介します。
- Webシステム開発のWBSテンプレート
- 業務システム刷新プロジェクトのWBSテンプレート
- テンプレート利用時の注意点
- WBSの作成・管理に役立つおすすめツール
Webシステム開発のWBSテンプレート
Webシステム開発では、フロントエンド(ユーザーの目に触れる部分)とバックエンド(サーバー側の処理)の連携を考慮したタスク分解が必要です。
以下は、一般的なWebシステム開発におけるWBS項目のサンプルです。自社のプロジェクトに合わせてカスタマイズしてご活用ください。
| 大項目(フェーズ) | 中項目(タスクグループ) | 小項目(個別タスク)例 |
|---|---|---|
| 要件定義 | 機能要件の策定 | ユーザー登録機能の要件整理、決済機能の要件整理 |
| 設計 | 画面設計 | トップページのUI設計、マイページのUI設計 |
| 実装 | バックエンド開発 | データベース構築、API(システム間をつなぐ窓口)開発 |
| テスト | 結合テスト | フロントとバックの連携確認、決済フローのテスト |
| リリース | 本番移行作業 | サーバーへのデプロイ(配置)、初期データの投入 |
業務システム刷新プロジェクトのWBSテンプレート
既存の業務システムを新しいシステムへ移行する場合、データ移行や社内調整のタスクを厚めに設定する必要があります。
以下に、業務システム刷新ならではのWBS項目サンプルを記載します。
| 大項目(フェーズ) | 中項目(タスクグループ) | 小項目(個別タスク)例 |
|---|---|---|
| 現状分析 | 既存業務の棚卸し | 各部署へのヒアリング、現行システムの課題抽出 |
| 要件定義 | 新システム要件策定 | 業務フロー図の作成、非機能要件(セキュリティ等)の定義 |
| 移行準備 | データ移行計画 | 移行データのクレンジング(整理)、移行ツールの選定 |
| テスト | ユーザー受入テスト | 実際の業務シナリオに沿ったテスト、マニュアル作成 |
| 定着化 | 社内教育 | 操作説明会の実施、ヘルプデスクの設置 |
テンプレート利用時の注意点
WBSテンプレートをシステム開発で利用する際は、そのまま流用せず、プロジェクトの特性に応じて調整することが重要です。
テンプレートには一般的な工程しか含まれていないことが多く、要件レビュー、設計承認、ベンダー調整、受け入れテスト、本番移行、操作教育、運用引継ぎなどの実務タスクが抜けやすいためです。
また、WBSの精度を高めるためには、各タスクに担当者、工数、期限、依存関係、完了条件を設定する必要があります。
システム開発のWBSテンプレートは便利な出発点ですが、最終的には自社の体制や開発方式に合わせて見直し、関係者でレビューしたうえで使用することが大切です。
WBSの作成・管理に役立つおすすめツール
WBSの運用を効率化するためには、プロジェクトの規模やチームの環境に合った専用ツールの導入が効果的です。
ここでは、システム開発の現場でよく利用される4つの代表的なツールを紹介します。
- Backlog:非エンジニアも含むチーム向け
- Jira Software:アジャイル・開発部門主導向け
- GitHub Projects:内製・エンジニア中心向け
- Excel・Googleスプレッドシート:小規模・初期検討向け
Backlog
直感的な操作性で、エンジニア以外のメンバーでも使いやすい国産のプロジェクト管理ツールです。
タスクの階層化やガントチャート(スケジュールを帯状に表した図)の自動生成機能を備えており、WBSの運用に適しています。社外のパートナー企業やクライアントを招待して共同管理しやすい点も評価されています。
参考:Backlog|チームで使うプロジェクト管理・タスク管理ツール
Jira Software
アジャイル開発(短い期間で実装とテストを繰り返す開発手法)との親和性が高く、多くの開発現場で標準的に採用されているツールです。
柔軟なカスタマイズ性が魅力であり、複雑なシステム開発のワークフローにも対応できます。エンジニア中心の開発チームで、高度なタスク管理やバグ追跡を行いたい場合に適しています。
参考:Jira | 課題 & プロジェクト管理ソフトウェア | Atlassian
GitHub Projects
ソースコード管理ツールであるGitHubに統合された、開発者向けのプロジェクト管理機能です。
エンジニアがコードの修正履歴とタスクを紐付けて管理できるため、開発作業と進捗更新をシームレスに行えます。社内の開発リソースを活用した内製化プロジェクトなどで強い力を発揮します。
参考:Projects について – GitHub ドキュメント
Excel・Googleスプレッドシート
新しくツールを導入するハードルが低く、誰もが使い慣れた操作感でWBSを作成できるのが強みです。
小規模なプロジェクトや、外部ツールのアカウント付与が難しい環境での利用に適しています。ただし、複数人での同時編集やタスクの依存関係の管理には限界があるため、大規模プロジェクトでは専用ツールの併用を推奨します。
参考:無料のオンライン スプレッドシート ソフトウェア: Excel | Microsoft 365
Google スプレッドシート: オンライン スプレッドシートとテンプレート | Google Workspace
システム開発WBSを効果的に運用するポイント

WBSは一度作成して終わりではなく、プロジェクトの進行に合わせて適切に運用し続けることが重要です。
この章では、WBSを形骸化させず、プロジェクトを成功に導くための4つの運用ポイントを解説します。
- 適切な粒度でタスクを分解する
- 定期的な見直しと更新を行う
- ステークホルダーとの共有と合意形成を行う
- リスク管理とバッファを設定する
適切な粒度でタスクを分解する
タスクの分解は細かすぎても粗すぎても管理の妨げになるため、適切な粒度を見極めることが求められます。
一般的には「8時間(1営業日)から40時間(1週間)程度で完了する単位」や「進捗を0%か100%のどちらかで判断できる単位」を基準とするのが有効です。この基準を設けることで、担当者の進捗報告が明確になり、遅延の検知がしやすくなります。
定期的な見直しと更新を行う
プロジェクトが進行すると予期せぬ課題や変更が発生するため、WBSは定期的に見直しと更新を行う必要があります。
週に一度の定例ミーティングなどのタイミングで、タスクの進捗状況を確認し、必要に応じてスケジュールの引き直しやタスクの追加・削除を実施します。現状の進行状況を正しく反映させることで、現実に即したプロジェクト管理が可能になります。
ステークホルダーとの共有と合意形成を行う
作成したWBSはプロジェクトマネージャー(PM)だけで抱え込まず、関わる各ステークホルダーと共有することが大切です。
経営陣や他部署の責任者、外部のシステム開発会社とWBSを共有し、「このスケジュールとスコープで進める」という合意形成を図ります。事前に関係者の納得を得ておくことで、後からの仕様変更要求やスケジュールの見解の相違を防ぐことができます。
リスク管理とバッファを設定する
システム開発においてスケジュールの遅延リスクは常に伴うため、あらかじめバッファ(余裕を持たせた予備の時間)を設定しておくことが不可欠です。
各工程のタスクを余裕のない期間で計画すると、一つのタスクの遅れがプロジェクト全体の遅延に直結します。技術的に難易度が高い工程や、外部システムとの連携部分など、不確実性の高いタスクには意図的にバッファを組み込んでおくのが賢明です。
システム開発WBSに関するよくある質問(FAQ)

最後に、システム開発のWBS作成や運用に関するよくある疑問について回答します。
プロジェクト管理の不安を解消するためのヒントとしてご活用ください。
- WBSとガントチャートの違いは何ですか?
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WBSが「作業の分解と構造化」を目的とした図であるのに対し、ガントチャートは「時間の流れと進捗の管理」を目的とした表です。
WBSで洗い出した個々のタスクに対して、開始日・終了日・担当者を割り当て、カレンダー上に横向きの帯(バー)で表現したものがガントチャートになります。実務においては、WBSでタスクを明確にした後、それをガントチャートに落とし込んでスケジュールを管理する流れが一般的です。
- WBSの作成にどれくらいの時間をかけるべきですか?
-
プロジェクトの規模や複雑さによりますが、目安としてプロジェクト全体の工数の5%〜10%程度をWBS作成(計画段階)に充てるのが望ましいとされています。
初期段階で時間をかけて綿密なWBSを作成するほど、その後の手戻りやトラブルが減少し、結果的に開発全体のスピードが向上します。拙速に開発を開始するのではなく、最初のタスク洗い出しにしっかりとリソースを投資してください。
- アジャイル開発でもWBSは必要ですか?
-
アジャイル開発においても、プロジェクトの全体像や大枠のゴールを共有するためにWBSの概念は非常に役立ちます。
ただし、ウォーターフォール開発(上流から下流へ順に工程を進める手法)のように最初から細部までタスクを固定するのではなく、直近のスプリント(1〜2週間程度の短い開発期間)で実施するタスクのみを詳細化する柔軟な運用が求められます。状況の変化に合わせてWBSを都度アップデートしていくアプローチが有効です。
まとめ:システム開発プロジェクトの成功はWBSから始まる

システム開発を成功させるためには、WBSを用いて作業を適切に分解し、スケジュールや工数を可視化することが極めて重要です。
要件定義からリリースまで多岐にわたる工程を構造化することで、抜け漏れを防ぎ、ステークホルダー間の円滑なコミュニケーションを実現できます。本記事で紹介した作り方の手順やテンプレートを活用し、自社のプロジェクト管理にお役立てください。
しかし、社内にエンジニアやプロジェクト管理の知見を持つ人材が不足している場合、適切なWBSの作成や外部ベンダーのコントロールに課題を感じることも少なくありません。
システム開発の要件定義やプロジェクト進行に不安がある場合は、専門的なノウハウを持つパートナー企業への相談をおすすめします。
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