製造業を取り巻く環境は、急速に変化しています。グローバル競争の激化、顧客ニーズの多様化、デジタル技術の進展により、従来の製品販売モデルだけでは持続的な成長が困難な状況です。多くのメーカー(製造業)が新規事業開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を認識していますが、実際に成果を出せている企業は限られています。
しかし、課題を正しく理解し、適切なプロセスと組織体制を構築すれば、メーカーでも新規事業を成功させることは可能です。
本記事では、メーカーにおける新規事業開発の背景から、直面する共通課題、成功させるための具体的な5つのステップ、必要な組織編成、外部パートナーの選び方まで、実践的な視点で解説します。
- メーカーに新規事業開発が求められている背景とサービス化の潮流
- 製造業特有の新規事業開発における3つの共通課題
- メーカーの新規事業を成功させる5つのステップとプロセス
- 立ち上げに必要な役割分担と出島組織の構築方法
- 外部パートナー選定で重視すべき5つのポイント
- 予算・既存システム連携・IT人材不足に関する実務的な質問への回答
製造業の強みである技術力や顧客基盤を活かしながら、デジタル時代に適応した新しい価値提供を実現するには、顧客起点の発想、アジャイルな開発手法、専門人材の確保が不可欠です。また、既存事業の影響を受けない独立した組織体制と、不足するスキルを補完する外部パートナーとの協業も重要な成功要因となります。
メーカーの新規事業開発が今、求められている背景と現状

製造業において新規事業開発の重要性が高まっている背景には、市場環境の構造的な変化があります。従来のビジネスモデルだけでは成長が難しくなり、新たな価値創造が求められています。
サービス化(サービタイゼーション)へのシフト
製造業では、製品単体の販売から、製品とサービスを組み合わせた価値提供へのシフトが加速しています。サービタイゼーションとは、製品を売り切るのではなく、その製品を通じて継続的なサービスを提供し、長期的な顧客関係を構築するビジネスモデルの転換を指します。
この変化の背景には、製品のコモディティ化(汎用品化)による価格競争の激化があります。とくに成熟市場では、製品の機能や品質での差別化が困難になり、価格競争に陥りやすい状況です。そのため、製品の提供価値を「所有」から「利用」や「成果」へと転換し、顧客との接点を継続的に持つことで、安定的な収益基盤を構築する動きが広がっています。
具体的な例として、建設機械メーカーが機械の販売だけでなく、稼働データを分析して最適な運用方法を提案するサービスや、故障を予測して事前に保守を行うサービスを提供するケースがあります。また、製造装置メーカーが従量課金制で装置を提供し、顧客の生産量に応じて課金するモデルも登場しています。
サービス化により、顧客はイニシャルコストを抑えられ、メーカーは継続的な収益とデータを獲得できるという双方にメリットがあります。ただし、サービス化を実現するには、製品の稼働状況をリアルタイムで把握するIoT技術、データを分析して価値に変えるAI技術、顧客とのデジタル接点を提供するプラットフォームなど、従来のハードウェア開発とは異なる能力が必要です。
製造業におけるDX推進の加速
製造業では、業務効率化や生産性向上を目的としたDX推進が急速に進んでいます。DXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを変革し、競争優位性を確立する取り組みです。
製造業のDXは、大きく2つの方向性があります。一つは、既存事業の効率化やコスト削減を目的とした「守りのDX」です。工場のスマート化、生産管理の自動化、サプライチェーンの最適化などが該当します。これらは既存の業務をデジタル化することで、生産性を高め、コストを削減する効果があります。
もう一つは、新たな価値創造や収益源の確保を目的とした「攻めのDX」です。新規事業開発やサービス化は、この攻めのDXに位置づけられます。顧客の課題をデジタル技術で解決する新しいサービスを開発したり、デジタルプラットフォームを構築して顧客との継続的な関係を築いたりすることで、新たな収益機会を創出します。
製造業でDXが加速している要因には、グローバル競争の激化、労働力不足、環境規制の強化などがあります。また、コロナ禍を契機に、リモートでの保守サービスやオンラインでの商談など、デジタルを前提とした事業運営の必要性が高まったことも大きな推進力となっています。
ただし、多くのメーカーがDXの必要性を認識しながらも、実際の推進には苦戦しています。経済産業省の調査によると、DXに取り組んでいる企業の多くが「人材不足」「既存システムの複雑化」「組織の壁」を課題として挙げています。新規事業開発においても、これらの課題が障壁となり、構想段階で止まってしまうケースが少なくありません。
参考:経済産業省「デジタルトランスフォーメーション調査2025の分析」
新規事業開発についてメーカーが抱える共通の課題

メーカーが新規事業開発に取り組む際、業種や企業規模を問わず、共通して直面する課題があります。これらの課題を理解し、対策を講じることが成功への第一歩です。
技術起点のプロダクトアウトから抜け出せない
メーカーの新規事業が失敗する最大の要因は、技術起点のプロダクトアウト型の発想から脱却できないことです。プロダクトアウトとは、「自社の技術や製品をどう売るか」を起点に事業を考えるアプローチであり、顧客のニーズや課題を深く理解せずに開発を進めてしまう傾向を指します。
製造業では、長年培ってきた技術力や製品品質が競争力の源泉であったため、「優れた技術や製品を作れば売れる」という成功体験が根づいています。しかし、新規事業、とくにサービス型の事業では、技術の優位性よりも「顧客の課題をどれだけ解決できるか」を重視する必要があります。
プロダクトアウトの問題点は、顧客が本当に求めていない機能や性能に開発リソースを費やしてしまうことです。たとえば、高精度なセンサーを開発したものの、顧客にとってはその精度が必要なく、むしろ価格や使いやすさが重視されるといったミスマッチが発生します。結果として、市場に投入しても顧客が購入せず、大きな投資が無駄になります。
対照的に、成功する新規事業はマーケットイン型、つまり顧客の課題を起点に事業を設計します。顧客が日常的に感じている不満や非効率、未解決の課題を深くリサーチし、その解決策として自社の技術を位置づけます。技術は手段であり、目的は顧客の課題解決であるという発想の転換が必要です。
Web・クラウドを前提としたIT人材とPMが社内にいない
メーカーの新規事業、とくにDXやサービス化を伴う事業では、Web技術、クラウドインフラ、データ分析、UI/UXデザインなど、従来のハードウェア開発とは異なるスキルセットが必要です。しかし、多くのメーカーでは、これらのデジタル技術を扱える人材が社内に不足しています。
従来の製造業では、機械工学、電気工学、材料工学などの専門知識を持つエンジニアが中心であり、ソフトウェア開発やデジタルサービスの企画・運営に関する経験が乏しいケースが一般的です。とくに、クラウドネイティブなシステム開発、アジャイル開発手法、DevOps(開発と運用の統合)といった現代的な開発プロセスに精通した人材は希少です。
また、新規事業では、製品やサービスの方向性を定め、開発の優先順位を決定し顧客価値を最大化する責任者であるプロダクトマネージャー(PM)の役割が極めて重要となります。しかし、メーカーの組織では、プロジェクトマネージャー(PjM:進行管理担当)は存在しても、顧客視点で製品価値を定義するプロダクトマネージャーの役割が明確でないことが多く、この機能不足が事業開発の停滞を招きます。
またIT人材不足の背景には、採用市場での競争激化もあります。デジタル人材は需要が高く、給与水準も高いため、製造業が他の業界と競争して優秀な人材を獲得することは容易ではありません。また、社内でIT人材を育成しようにも、実践的な経験を積む機会が少なく、育成には時間がかかるという課題もあります。
失敗を許容しない評価制度で意思決定に時間がかかる
メーカーの組織文化では、品質管理や安全性が最重視され、失敗を回避することが評価される傾向があります。この「失敗を許容しない文化」は、既存事業では製品の信頼性を支える重要な要素ですが、新規事業開発においては大きな障害となります。
新規事業では、市場のニーズや最適なビジネスモデルが不明確な状態からスタートするため、仮説を立てて検証し、失敗から学習するプロセスが不可欠です。しかし、失敗を恐れる文化では、慎重な検討と承認プロセスに時間がかかり市場投入が遅れます。また、失敗が個人の評価に直結すると、担当者はリスクを取らず、安全な選択肢ばかりを選ぶようになります。
また、意思決定の遅さは競争環境においても不利に働きます。新規事業の分野では、スタートアップ企業や異業種からの参入者が素早く動き、市場を開拓しています。メーカーが詳細な事業計画と承認を待っている間に、競合が先行し、市場での優位性を失うケースも少なくありません。
さらに既存事業の評価制度をそのまま新規事業に適用すると、短期的な売上や利益で評価されてしまい、長期的な価値創造が評価されません。新規事業では、初期段階での成果は顧客インタビューの実施数、仮説検証の回数、MVPの完成度など、プロセス指標で評価すべきですが、既存の評価制度ではこれらが正当に評価されにくいという問題があります。
メーカーの新規事業を成功させる5つのステップ

メーカーが新規事業を成功させるには、顧客起点の発想とアジャイルなプロセスを組み合わせた体系的なアプローチが必要です。以下の5つのステップに沿って進めることで、失敗のリスクを最小化しながら事業を成長させることができます。
ステップ1:顧客の「不」を起点に課題を定義する
新規事業の出発点は、顧客が抱える「不」、つまり不満、不便、不安、不足といった課題を発見することです。技術や製品ありきではなく、顧客の課題を深く理解することから始めます。
顧客の「不」を発見するには、実際の現場に足を運び、観察やインタビューを通じて顧客の行動や感情を理解します。製造業の場合、顧客の生産現場や業務プロセスを詳細に把握し、どこに非効率や課題があるかを特定します。たとえば、設備の保守担当者が故障の兆候を見逃して突発的なトラブルに苦労している、部品の在庫管理が煩雑で欠品リスクがある、といった具体的な課題を明らかにします。
ここでは「顧客が言語化できていない潜在的な課題を発見すること」が重要です。顧客自身も解決策が分からず、現状の不便を当たり前だと思っている場合があります。そのため、「何が欲しいですか」と直接聞くのではなく、「現在どのように作業していますか」「その過程でどんな困難がありますか」といった行動を掘り下げる質問を通じて、本質的な課題を浮き彫りにする流れが適しています。
また、課題を定義する際は、その課題の深刻度、影響範囲、解決への緊急性を評価しましょう。多くの顧客が共通して抱え、解決に対して対価を支払う意思がある課題を優先的に選定し、自社の技術や強みがその課題解決にどう貢献できるかも並行して検討しますが、あくまで顧客の課題が中心にあることを忘れてはいけません。
ステップ2:MVPで「使われる最小の体験」を設計する
課題が明確になったら、その解決策として最小限の機能を持つMVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)を設計します。MVPの目的は、完璧な製品を作ることではなく、「顧客が実際に使い、価値を感じるか」を最小のコストと時間で検証することです。
メーカーのMVP設計では、「使われる最小の体験」を意識することが重要です。単に機能を削減するのではなく、顧客が課題を解決するために最低限必要な体験を提供します。たとえば、設備の予知保全サービスであれば、高度なAI分析の前に、まずは稼働データを可視化し、異常値を通知する機能だけを実装します。これにより、顧客が「データを見て判断する」という基本的な体験を得られるかを確認します。
MVP設計では、技術的な完成度よりもスピードを優先するため、既存の技術やツールを活用し、短期間でプロトタイプを作成します。場合によっては、システムを開発する前に、手作業やスプレッドシートを使った「コンシェルジュMVP」で顧客の反応を確認することも有効です。たとえば、自動化システムを開発する前に、人手で同じサービスを提供し、顧客が本当に価値を感じるかを検証する場合もあります。
MVPのもう一つの重要な役割は、社内での合意形成です。言葉だけで説明するよりも、実際に動くプロトタイプを見せることで、経営層や関係者の理解を得やすくなります。また、開発チーム内でも、具体的な形があることで議論が深まり、方向性の認識を合わせやすくなります。
ステップ3:PoC(概念実証)で市場反応を確認する
MVPが完成したら、実際の顧客に使ってもらい、市場の反応を確認するPoCを実施します。PoCとはProof of Conceptの略で、概念実証を意味し、事業アイデアが技術的・事業的に実現可能かを小規模に検証するプロセスです。
PoCでは、限定的な顧客グループを選定し、一定期間MVPを使用してもらいます。この際、使用状況を詳細に観察し、定量的なデータ(使用頻度、機能別の利用率、完了率など)と定性的なフィードバック(使用感、改善要望、価値の実感度など)の両方を収集します。
メーカーのPoCで重要なのは、「技術的に動くか」だけでなく、「顧客が継続的に使いたいと思うか」「対価を支払う意思があるか」を確認することです。技術的には成功しても、顧客が日常的に使わない、あるいは無料でないと使わないのであれば、事業として成立しません。
そしてPoCの結果を基に、以下の3つの判断を行います。
- 継続:仮説が正しく、事業化に進む
- 修正:仮説の一部を修正して再検証する
- 撤退:根本的に顧客ニーズがないと判断し、事業を中止する
撤退の判断も重要な成果であり、大規模な投資をする前に方向転換できることがPoCの価値です。
ステップ4:フィードバックを受けながら柔軟に開発を進める
PoCで顧客の反応が良好であれば、本格的な開発フェーズに移行します。ただし、最初から完成形を目指すのではなく、顧客のフィードバックを受けながら柔軟に開発を進めるアジャイル開発のアプローチが効果的です。
アジャイル開発では、2〜4週間程度の短いサイクル(スプリント)で機能を追加し、その都度顧客に提供してフィードバックを得ます。このサイクルを繰り返すことで、顧客の期待と製品の方向性のズレを早期に修正でき、市場適合性を高められます。
メーカーの開発では、従来のウォーターフォール型(要件定義→設計→開発→テスト→リリースと順番に進む手法)に慣れているため、アジャイル開発への移行には文化的な変革が必要です。不確実性を前提とし、計画の変更を柔軟に受け入れる姿勢が求められます。
また、開発プロセスでは、社内の既存システムや製品との連携も考慮します。新規事業で開発したサービスが、既存の製品データや顧客管理システムと連携できれば、より包括的な価値提供が可能になります。ただし、既存システムの制約に引きずられて新規事業の柔軟性が失われないよう、適度な独立性を保つことも重要です。
ステップ5:既存事業とつなげてスケールさせる
新規事業が一定の成果を出し、市場適合性が確認できたら、既存事業との連携を強化し、事業をスケール(拡大)させます。メーカーの強みは、既存の顧客基盤、販売チャネル、ブランド力を活用できる点にあります。
既存事業との連携では、クロスセル(既存顧客に新サービスを提案)やアップセル(既存製品の購入者に付加価値サービスを提供)の機会を創出します。たとえば、製品を購入した顧客に対して、データ分析サービスや遠隔監視サービスを提案することで、顧客単価を上げることが可能です。
また、新規事業で得られた顧客データや市場インサイトを既存事業にフィードバックすることで、既存製品の改善や新機能の開発にも活かせます。このような相乗効果により、企業全体の競争力が強化されます。
その他、スケールの段階では組織体制も拡大します。初期の少数精鋭チームから、営業、カスタマーサポート、開発、マーケティングなどの機能を持つ本格的な事業組織へと移行します。ただし、急激な拡大は品質低下や組織の混乱を招くリスクがあるため、段階的に成長させることが重要です。
メーカーの新規事業開発に必要な組織と役割分担

新規事業を成功させるには、適切な役割分担と組織体制の構築が不可欠です。既存事業とは異なる独立した体制を整えることで、柔軟かつ迅速な事業推進が可能になります。
立ち上げに必要な3つの役割を定義・理解する
新規事業の立ち上げには、最低限3つの役割が必要です。これらの役割を明確に定義し、適切な人材を配置することが成功の第一歩です。
事業責任者
事業責任者は、新規事業全体の方向性を定め、最終的な意思決定を行う役割です。経営層との調整、予算確保、社内の理解獲得、重要な判断などを担当します。事業への強いコミットメントと、組織内での影響力が求められ、また、不確実性の高い状況でも判断を下せる決断力やチームを牽引するリーダーシップも必要です。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーは、顧客のニーズを理解し、製品やサービスの方向性を定める役割です。ユーザーリサーチ、仮説検証、機能の優先順位付け、開発チームとの連携などを担当します。顧客視点と事業視点を行き来できる能力、データに基づいた意思決定力、そしてエンジニアやデザイナーと効果的にコミュニケーションできる能力が必須です。メーカーではこの役割が不明確なケースが多く、明確に定義することが求められます。
エンジニア・デザイナー
エンジニアとデザイナーは、アイデアを実際の製品やサービスとして形にする役割です。エンジニアは、技術的な実現可能性を判断し、システムやプロダクトを構築し、デザイナーは、ユーザー体験を設計し、使いやすく魅力的なインターフェースを提供する役目を担います。いずれの役割についても、新規事業では完成度よりもスピードが重視されるため、MVPを素早く開発し、顧客のフィードバックを基に柔軟に改善できる能力が必要です。
これらの役割は、一人が複数を兼務することもありますが、機能としては明確に存在する必要があります。とくに初期段階では3〜5名程度の少数精鋭チームを編成し、密接に協働できる体制を構築しましょう。
事業フェーズの進展に合わせてチームの構成を最適化させる
新規事業は、フェーズによって必要な機能や人材が変化します。事業の成長に合わせて、チーム構成を柔軟に最適化することが重要です。
探索フェーズ(0→1)
初期の探索フェーズでは、顧客の課題を発見し、解決策の仮説を検証することが主な目的です。この段階では、事業責任者、プロダクトマネージャー、エンジニア/デザイナーの最小構成で進めます。意思決定のスピードと柔軟性を最優先し、大規模な組織は避けます。
検証フェーズ(1→10)
PoCで一定の成果が確認できたら、本格的な製品開発と初期顧客の獲得を進める検証フェーズに移行します。この段階では、ビジネスデベロップメント担当(営業・マーケティング)を追加し、顧客開拓を強化するのがよいでしょう。また、開発メンバーも増員し、製品の完成度を高めていきますが、まだ大規模な拡大は避け、10名程度までの体制を維持することが推奨されます。
成長フェーズ(10→100)
市場適合性が確認され、事業が軌道に乗り始めたら、本格的な成長フェーズに入ります。この段階では、営業チーム、カスタマーサポート、マーケティング、開発組織を拡充し、本格的な事業組織として機能させます。既存事業との連携も強化し、企業全体の資源を活用しましょう。
各フェーズでの移行判断は、定量的な指標(顧客数、収益、継続率など)と定性的な評価(市場の反応、組織の成熟度など)を総合的に判断して行います。早すぎる拡大は組織の混乱を招き、遅すぎる拡大は市場機会を逃すリスクがあるため、適切なタイミングの見極めが重要です。
既存事業の干渉を防ぐために「出島組織」として独立させる
新規事業を既存事業の組織内に配置すると、既存事業の論理や評価制度、承認プロセスの影響を受け、本来必要な柔軟性やスピードが失われます。そのため、新規事業は「出島組織」として独立させることが推奨されます。
出島組織とは、既存組織から物理的・機能的に分離された独立組織を指します。具体的には、別フロアやサテライトオフィスに拠点を置く、独自の予算と権限を持つ、既存事業とは異なる評価制度を適用するといった形で独立性を確保します。
出島組織のメリットは、既存事業の常識や制約にとらわれず、新しいアプローチを試せることです。また、失敗を許容する文化を醸成しやすく、メンバーが思い切ったチャレンジができます。さらに、既存事業との利害対立を回避し、リソースの奪い合いを防げます。
ただし、既存事業との連携が疎遠になり既存の顧客基盤や技術資産を活用できないリスクや、出島組織が成功した際に、既存組織に統合する過程で文化の衝突が生じる可能性などの課題もあります。
効果的な出島組織の運営には、経営層からの明確な支援と、定期的なコミュニケーションが重要です。四半期ごとの報告会や、既存事業との情報共有の機会を設けることで、適度な独立性と連携のバランスを保てるでしょう。
社内に不足するIT・DX専門スキルは外部パートナーと補完し合う
メーカーの多くは、社内にWeb開発、クラウドインフラ、データ分析、UI/UXデザインなどのデジタル専門スキルが不足しています。これらのスキルを短期間で社内に蓄積することは困難なため、外部パートナーと協業し、互いの強みを補完し合う体制を構築することが現実的です。
社内が担うべき領域
事業の方向性を決定する責任者機能と、顧客理解やビジネスモデル設計などのコア機能は、できる限り社内で保持します。これらは事業の中核であり、外部に依存すると事業のコントロールが難しくなります。また、既存事業との連携や社内調整も、社内メンバーが担うべき役割です。
外部パートナーに委託できる領域
技術開発、デザイン、データ分析、インフラ構築などの専門性の高い領域は、外部パートナーに委託することが効果的です。とくに初期段階では、社内に専門家がいない場合、外部の知見を借りることで、質の高いアウトプットを素早く得られます。
外部パートナーとの協業では、単なる発注者と受注者の関係ではなく、チームの一員として協働する「共創」の関係を構築することが重要です。定期的なミーティング、情報共有、共通の目標設定などを通じて、内部メンバーと外部パートナーが一体となって事業を推進できる環境を整えます。

メーカーの新規事業開発における外部パートナー選びのポイント

外部パートナーの選定は、新規事業の成否に大きく影響します。単なる技術力だけでなく、事業への理解や協業姿勢を総合的に評価することが重要です。
開発まで一貫して実行できるか見極める
新規事業開発では、戦略立案、顧客調査、コンセプト設計、プロトタイプ開発、本格実装まで、一連のプロセスを一貫して進められるパートナーが理想的です。各フェーズで異なる業者に発注すると、引き継ぎのたびに情報が失われ、一貫性が損なわれます。
一貫して実行できるパートナーは、事業の文脈や背景を深く理解した上で開発を進めるため、顧客ニーズに沿った製品が生まれやすくなります。また、フェーズ間の移行がスムーズになり、全体のスピードも向上します。
パートナーの実行力を見極めるには、過去のプロジェクトにおいて、企画から実装まで一貫して関わった事例があるかを確認します。また、社内にどのような専門家がいるか、各フェーズで必要な機能をどう提供できるかを具体的に確認しましょう。
指示待ちの受託体質ではなく「壁打ち」できる関係を重視する
新規事業では、事業の方向性や施策の詳細が最初から明確になっていることは稀です。そのため、指示を待つのではなく、自ら提案し、議論の壁打ち相手となれるパートナーが理想的です。
壁打ちとは、アイデアや課題を投げかけ合い、対話を通じて思考を深めるプロセスです。優れたパートナーは、クライアントの課題を深く理解した上で、「この方向性はどうか」「このリスクは考慮したか」といった建設的な問いを投げかけ、より良い解決策を共に探ります。
壁打ちできるパートナーを見極めるには、初回の打ち合わせでの対応を観察することがポイントです。単に要件を聞くだけでなく、事業の背景や目的について深く質問してくるか、その場で複数の選択肢や懸念点を提示できるかを確認しましょう。また、過去のプロジェクトで、当初の計画から方向転換した事例や、クライアントの想定を超える提案をした経験があるかも重要な判断材料です。
メーカー特有の商習慣を理解している相手を選ぶ
製造業には、長い取引関係、複雑な承認プロセス、品質重視の文化、既存システムとの連携など、業界特有の商習慣や制約があります。これらを理解していないパートナーとの協業は、認識のズレや摩擦が生じやすくなります。
メーカーの商習慣を理解しているパートナーは、製造業の顧客との協業経験があり、業界の用語や課題、意思決定プロセスを把握しています。そのため、スムーズなコミュニケーションが可能になり、実現可能な提案ができます。
パートナー選定では、製造業での実績や事例を確認します。具体的には、どのようなメーカーとどんなプロジェクトを手がけたか、その際にどのような課題に直面し、どう解決したかを聞きましょう。また、初回の対話で、自社の業界や事業への理解度を測ることも有効です。
ブラックボックス化させない開発体制を構築できるか確かめる
外部パートナーに開発を委託する際の懸念の一つは、技術やノウハウがブラックボックス化し、将来的に内製化や他社への移行が困難になることです。そのため、開発プロセスや技術を可視化し、知見が社内に蓄積される体制を構築できるパートナーを選ぶことが重要です。
なお、ブラックボックス化を防ぐには、以下の点を確認するとよいでしょう。
- 開発ドキュメントやソースコードが適切に管理され、社内からアクセスできる体制があるか
- 開発プロセスに社内メンバーが参加し、技術的な判断の背景を理解できる機会があるか
- 将来的に社内で運用や改善ができるよう、技術移転やトレーニングの提供があるか
優れたパートナーは、自社への依存を高めるのではなく、クライアントの自立を支援する姿勢を持っています。そのため、知見の共有や内製化支援にも積極的です。契約時には、知的財産権の帰属、ソースコードの開示、技術移転の内容などを明確にしておくことが推奨されます。
長期的な「事業の成功確率」で投資判断を下す
外部パートナーの選定では、単なるコストや納期だけでなく、「長期的に事業を成功させる確率を高めるパートナーはどこか」という視点で判断することが重要です。
短期的には費用が高く見えても、経験豊富なパートナーは失敗のリスクを減らし、市場投入までの時間を短縮し、最終的には投資対効果を高めます。逆に、安価なパートナーを選んだ結果、方向性のズレや品質問題が発生し、結果的に多くの時間とコストを浪費するケースも少なくありません。
事業の成功確率を高めるパートナーの特徴は、過去の成功事例だけでなく、失敗から学んだ経験も持っていることです。新規事業では失敗が避けられないため、どのように失敗に対処し、軌道修正したかの経験が価値を持ちます。
パートナー選定では、複数の候補と面談し、事業のビジョンや課題を共有した上で、それぞれの提案内容や姿勢を比較します。単なる提案書の内容だけでなく、対話の質、理解の深さ、誠実さなども総合的に評価し、長期的なパートナーシップを築ける相手を選びましょう。
メーカーの新規事業開発に関するよくある質問(FAQ)

メーカーの新規事業開発に関して、よく聞かれる質問とその回答を紹介します。
- 予算はどの程度見積もっておくべきですか?
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新規事業の予算は、事業の性質や目指す規模によって大きく異なりますが、初期の仮説検証フェーズでは500万円〜2,000万円程度、本格的なMVP開発とPoCでは2,000万円〜5,000万円程度が一般的な目安です。
予算の内訳は、市場調査・顧客インタビュー、プロトタイプ開発、システム開発、デザイン、マーケティング、人件費などです。とくに、外部パートナーと協業する場合は、戦略立案から開発、運用支援まで含めた包括的な費用を見積もる必要があります。
予算編成の際には、最初から大規模な予算を投入するのではなく、段階的に投資を拡大するアプローチが重要です。まずは小規模な予算で仮説検証を行い、成果が見えた段階で次のフェーズへの投資を判断しましょう。このアプローチにより、リスクを抑えながら、有望な事業に集中投資できます。
また、募集に際して要件がありますが、助成金や補助金の活用も検討できます。事業再構築補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金など、新規事業やDXに関連する支援制度があり、これらを活用することで、自己負担を軽減できます。
- 既存システムとはどう連携するのですか?
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新規事業で開発するシステムと既存システムの連携は、事業の性質によって方法が異なります。基本的なアプローチは、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じたデータ連携です。
たとえば、新規開発するIoTプラットフォームが、既存の生産管理システムから製品情報を取得する必要がある場合、既存システムがAPIを提供していれば、そのAPIを通じてデータを取得します。既存システムがAPIを持たない場合は、データベースから直接読み取る、またはCSVなどのファイル連携を行う方法があります。
連携の設計では、既存システムへの影響を最小限に抑えることが重要です。既存システムを大幅に改修すると、リスクやコストが増大するため、新規システム側で柔軟に対応できる設計を心がけましょう。また、初期段階では最小限の連携にとどめ、事業が拡大した段階で本格的な統合を検討するアプローチも有効です。
技術的な判断には専門知識が必要なため、システムアーキテクトやインフラエンジニアを含めた検討が推奨されます。外部パートナーを活用する場合は、既存システムの構成を理解し、適切な連携方式を提案できる経験豊富なパートナーを選ぶことが重要です。
- 社内にIT人材がほとんどいませんが大丈夫ですか?
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社内にIT人材がほとんどいない場合でも、新規事業開発は可能です。多くのメーカーが同様の状況からスタートしており、外部パートナーとの協業や段階的な人材育成によって事業を推進しています。
重要なのは、社内に最低限のコアメンバー(事業責任者とプロダクトマネージャー的役割を担う人材)を確保し、技術開発やデザインなどの専門領域は外部パートナーに委託する体制を構築することです。社内メンバーは、技術の詳細を理解している必要はありませんが、顧客のニーズを理解し、事業の方向性を定め、外部パートナーと効果的にコミュニケーションできる能力が求められます。
また、外部パートナーとの協業を通じて、社内メンバーが徐々にIT知識を習得することも可能です。開発プロセスに参加し、技術的な判断の背景を学ぶことで、基礎的な理解が深まります。
長期的には、事業がある程度の規模になった段階で、社内にIT人材を採用することを検討しましょう。事業の方向性が固まり、継続的な開発ニーズが明確になった時点が、採用の適切なタイミングです。初期段階から大規模な採用を行うよりも、段階的に体制を強化する方が、リスクを抑えられます。

まとめ:メーカーの新規事業は「実行できるチーム」で決まる
メーカーにおける新規事業開発の成功は、優れたアイデアや技術だけでなく、それを実行できるチームと組織体制によって決まります。
製造業では、サービス化やDX推進が加速する中、技術起点のプロダクトアウトから脱却し、顧客の課題を起点に事業を設計する発想転換が求められています。IT人材の不足や失敗を許容しない文化といった課題に対しては、外部パートナーとの協業や出島組織の構築によって対処できます。
新規事業を成功させるには、顧客の「不」を起点に課題を定義し、MVPで素早く検証し、フィードバックを受けながら柔軟に開発を進めるプロセスが重要です。また、事業責任者、プロダクトマネージャー、エンジニア・デザイナーという明確な役割分担と、既存事業から独立した出島組織の構築が、柔軟な事業推進を可能にします。
外部パートナーの選定では、一貫した実行力、壁打ちできる関係性、メーカー特有の商習慣への理解、ブラックボックス化を防ぐ体制、そして長期的な事業成功確率を重視しましょう。
Incubation Base株式会社は、製造業の新規事業開発を伴走型で支援しています。顧客課題の発見から事業戦略の策定、MVP開発、PoC実施、本格的なシステム開発まで、新規事業の各段階で必要なサポートを提供します。社内にIT人材が不足している、技術起点の発想から脱却できない、既存事業との両立が難しいといった課題をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。製造業での豊富な経験を持つチームが、貴社の事業特性に応じた最適なアプローチをご提案し、実行できるチームとして伴走します。